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ノルウェーの森
映画「ノルウェーの森」を観た。
鑑賞後、なんだか肩の荷が下りた気がした。

前回のブログ、「スタンダール・シンドローム」における
詩に対しての情けないほどの僕の感傷性の吐露に続いての今回の
映画「ノルウェーの森」のトピック。

アバンギャルド&タフをモットーに生きている僕のイメージが
傷がつくことは免れない。

でも、仕方がないことで
ほんたうは好きだったんです。村上春樹。
「ノルウェーの森」なんて何度読み返したことか?

3年くらい前のある日、仕入れから店に帰るとスタッフからある企画書の
ような書類を渡された。その書類を持ってきた人が映画撮影の為に家具や
雑貨のリースをしたいという。
書類を見て見ると「ノルウェーの森制作企画」と記載され、何やら仰々しく
書かれている。
僕はふと、周囲を見回した。
これは僕が陰ながら村上春樹を読んでいる事を知っているある人物による
手の込んだ悪質なイタズラに違いないと思ったのだ。

誰かが僕をハメようとしている。

書類を読み進めるとこれまたビックリした。
監督にあのトラン・アン・ユンと名がクレジットされているではないか。
僕の脳裏に颯爽と思い浮かぶ「青いパパイヤの香り」の瑞々しい映像が
僕が思い描いていた「ノルウェーの森」のシーンに変換される。

「悪くない。」と僕は思った。(ワタナベ調)

「ノルウェーの森」をトラン・アン・ユンが監督するなど、このあまりにも
出来過ぎている設定。僕をハメる為の嘘にしては完璧すぎる。

とケータイが鳴る。
下北沢のa.m.aストアのOさんからだった。
「お疲れさまでーす。」

「あっお疲れさまです。」

「エージさん、お店に○○っていう映画撮影のスタイリストさん行きませんでした?」

「あっ、僕は留守していたんですけど、そのようですね。」

「ウチに商品のリースで来たんですけど、いろいろと探しているものがあるらしいんで
 エージさんのとこ紹介しておきました。よろしくです。」

「は、はい。」

どうやら、誰かが僕をハメようとしているワケではなく、事実、「ノルウェーの森」は
トラン・アン・ユンが監督することで進められ、あの企画書はちゃんとしたものであり、
そこに僕の店の商材が関わろうとしている。
村上春樹の陰のファンで映画キ○ガイの僕にとっては光栄なことであった。

数日後、僕は何度かそのスタイリストさんと会い、それぞれのシーンで使用したい
家具や雑貨のイメージを答え合わせして、それらを探す手伝いをした。

「最終決定は監督の奥さんがするんですけど、フランスにいる奥さんに画像を送って
 確認を取るんです。」

「奥さんって彼の作品にでている女優さんですよね。」

「そうです。やっぱ向こうの人なので、僕ら日本人があの作品を読んで描く世界観と
 彼女の考える世界観にはギャップがありまして、僕らが集めてくる物にもなかなか
 オーケーがでないんです。」

「なかなか大変ですね。」

「それにちょっと、ひねくれたところがあって、何かの画像を送ると、我々が選択した
 その何かではなく、その画像の端っこにたまたま写りこんでいた物に興味を持ったりして、
 そのたまたま写りこんだ物の画像を送ってくれと始まるのです。」

「はー、なるほど。」

「だから、逆にコレだなーと思う物を画像の端っこに写すようにしたら、意外と交渉が
 スムースになりました。」

「んー、なるほど。」

そのうち映画の完成の噂を耳にし、観た者の感想も僕は聞いた。
そのどれもがあまり良いものではなかった。

僕はやはりダメだったのかと半ばあきらめていた。
外国の映画監督が日本の何かをモチーフに作品を作るとその文化の違いのせいか、僕たち
日本人が頷けない描き方をしていることが往々にある。その演出が気になって映画の本質
までも台無しなってしまう。
なんたって「ノルウェーの森」だし、トラン・アン・ユンだし、
僕は傷つく事を恐れ、これまでこの映画を観ることができなかった。

しかし、この秋の空気に背中を押され、昨晩、観ることにしたのだ。

素晴らしかった。
トラン・アン・ユンによって村上春樹の「ノルウェーの森」は救われた気がした。
これがビジネスの絡んだ日本のメディアに毒された国内の監督が手がけていたら
こうはならなかったろう。

なんだか、肩の荷が下りた気がした。フ―
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by interestingman | 2011-10-26 18:55
スタンダール・シンドローム
フランスの作家スタンダールは初めてイタリアのフィレンツェを訪れ、
サンタ・クローチェ聖堂の内部壁画を見上げていた。
すると、突然、そこに描かれた世界に意識が吸い込まれるようになり、
眩暈と動揺に襲われ、ある種の発作状態に陥ったという。

今とは違い、僕がまだでんでん多感だった若い頃、同じような経験をしたことがある。

二十歳前後だったと記憶しているが・・・その頃、僕はよく群馬県に遊びに行っていたのだが
ある時、前橋市にある前橋文学館の別館、萩原朔太郎記念館を訪れた。
朔太郎の詩は当時の僕は好んで読んでいたし、「詩人の記念館とは如何に」
と興味があって行ったワケだが、彼の縁のある物がショーケースに陳列してあるだけで、
大した感慨にも浸れず、消化不良な感じだった覚えがある。
絵描きの記念館なら、絵を楽しめるだろうし、彫刻家ならその作品を感じれるだろうけど
詩人となると「あっそう、これが彼の愛用していた万年筆で、これが彼が当時、好んで
被っていた帽子ですか・・・」とあっさり僕はかたずけてしまっていた。
そんな軽薄さは若さの現れかもしれないが・・・

早々と展示室を後にすると当館入口に隣接している小さなギャラリーである催しをやっていた。
どうやら朔太郎に縁のある詩人の作品が展示がされているようで、遠目から覗く限りでは
壁面に拳大の文字がズラーと書かれている。
「今度はなんですかー」と半ばおちょくりガチに僕は展示室に入り、その詩人の名前も
確認せずに壁面に大きく書かれた詩を読み始めた。

題名は「場面」と一際太い書体で縦に書かれてあり、僕は左方向へ横歩きをしながら
その詩を読み進めた。

すると、それは全く味わったことのない感覚だった。

普段、手にとって読む詩集とは比べ物にならないイメージのスケールが僕を捉えた。
それはまるで9インチの白黒テレビと最新の40インチの液晶テレビの伝達イメージの
違いに匹敵するほどのものだと思う。

僕は完全にその詩の世界に飲み込まれ、読み終わる頃には2メートル程の涙の軌跡を
展示室の床に残し、呆然としていた。
後日、僕はその詩人の詩集を手に入れ、定期的に読み返している。


「場面」

春がきたのなら春に眼覚めねばならぬ
夏がきたら夏に眼覚め
たとえどこまでもしきたりが続くにしても
いろとりどりに空間を切らねばならぬ
軌跡はひとすじの問いにすぎず
夜はどこにでもあるだろう
夜がきみの世界なら
踊子よ夜を抱いて踊れ

さわやかに波紋はめぐり
海沿いの闇のみちから
現代のプロタゴニストが歩いてくる
素っ裸に鉄の手袋、鉄の靴
アクロバティックなかれの歩みが
彼の孤独をひき立たせるのだ
そのむき出しの場面の頂き高く
男が君の世界なら
踊子よ男を抱いて踊れ

街々の方へ急いでいるのは
あれは本当に悲惨の幻影にすぎないのか
渇きはどこにでもあるだろう
はげしい渇きが
爪先を立てて床をかけてゆく
交錯する思想の照明たちの壁つきぬけて
海への闇の階段をきしらせている
あやふやな録のおもいのフォックス・トロット
いつにしろ
自然ががきみの世界なら
踊子よ自然を抱いて踊れ

光はいくすじにでも裂けて流れ
けっしてわれわれが光で充満することはないだろう
その間隙の氷のなかから
いまこそ氷っていた旋律をとり出さねばならぬ
みごとに巧まれた緋の旋律が
昨日の人間たちのばらばらの領域から
未知の獣の呻きのように立ち上がる
するとたちまち
霧の伽藍も立ちあがり
ありあまる矛盾の起伏のはてに
かつて無機物への夢しか育てなかった土地
いまもなお石のように閉ざされている土地から
かれらの砂利のざわめきが聞こえてくるのだ
かれらの霧の咆哮が聞こえてくるのだ
かれら 霧と石の種族
われらの祖先
冷風は錆びた空へと舞いあがる
その落魄の場面の頂き高く
明日がきみの世界なら
踊子よ明日を抱いて踊るがいい

ふたたび緋の旋律が
はじめの定めによって傷ついて現われ
石の上に人間の血を滴らすとき
砂利のひとつひとつが
世界の傷のひとつひとつが
永遠に近い何ものかに向ってうごめきはじめ
やがては幻滅のうちへのように消えてゆくのだ
踊よ子きみもいまでは消えねばならぬ
投げられた軌跡が生きてくるのも季節の上なら
それがきみの定めというものだろう


1959年発表 渋沢孝輔第一詩集「場面」から

長々と・・・秋ですね。
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by interestingman | 2011-10-04 23:52



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